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小谷寛二
呉大学社会情報学部教授


 リスクマネージメントと保険加入

 川での事故安全策に対するリスクマネージメントの立場から次の3つを挙げると、

(1)

川遊びは死亡事故を伴なう危険性があるので、このようなリスクある活動は中止する。あるいは川遊びの時は水の中に入らないようにするとか、別 のプログラムを考えるか、保険額が小さければライフジャケットを必ず着せるとかして、リスクを小さくする。

 

(2)

リスクについて教育し、川における自然のルールを教え、自身で中止する判断力を養い、危険を予知したり、回避できる能力を高めることである。また、指導者自らも研修し、危険に対処できるようにすることである。

 

(3)

リスクを分散させて活動することである。つまり、相手に契約や約束事を書いてもらって危険を引き受けさせることである。そして、保険に入っておくことが重要なこととなってくる。「危険を作り出したものはそれを防止する義務がある」ということが賠償責任の原則である。ボランティア指導者もその点では同じことであって免れない。


 保険形態の分類

表1 損害の形態と事故原因との組み合わせ
損害
事故原因

事故原因が指導者の責任に帰されるもの

事故原因が使用する施設や器具に帰せられるもの(指導員に点検ミスある場合は左記)

他の団員に事故原因が帰せられるもの(団員の親が責任を負う場合も含む) 左記のいずれにも該当しないもの
団員の傷害死亡
 
 
 
 

指導者の傷害死亡

 
 
 
 

第3者の傷害死亡

 
 
 
 

団体が借りている物の損壊

  
  
 
第3者の物の損壊
 
 
 
 
団体所有の物の損壊
 
(日本体育協会日本スポーツ少年団「スポーツ安全百科」ぎょうせい、p.286一部変更)
○印・・「スポーツ安全協会傷害保険」または団員のために団体が加入するその他の「傷害保険」
△印・・「指導者が加入する賠償責任保険」
□印・・団員が加入する「賠償責任保険」
●印・・施設の所有者・管理者が加入する「施設所有者・管理者賠償責任保険」
◎印・・受託者賠償責任保険
※印・・動産総合保険

さて、その保険であるが、損害の形態と事故原因を組み合わせると、表1のように複雑な関係にある。市民活動の主催者や指導者が川を使った行事や教室を実施するときに、安全に注意し配慮するのは当然としても、事故はある確率でもって発生することが考えられるので、「安心」して指導するためには、その条件の一つとしての事故補償策を取っておくことが必要・十分条件となる。

 「川に学ぶ」活動者に認識されていない保険の重み

 交通事故に対する備えとしては、自賠責保険はもちろんのこと、任意保険にほとんどのドライバーが加入している。交通 事故による命も、「川に学ぶ」活動による命も損害賠償の額には、変わりはないのである。

 ところが、1999年に開催された「川に学ぶシンポジウム、北上川」における活発に活動している団体の紹介によると、「レクリエーション保険」「全国町村総合賠償保険」「ボランティア活動等行事用保険」「普通 傷害保険」「スポーツ安全保険」「旅行傷害保険」「国内旅行傷害保険」と、260万円の傷害保険のみから、1億円の損害賠償保険付き加入団体まで、多様に別 れているが特徴である。最近のように「総合的学習」の指定校とタイアップして、活動が常設化してくると、安全の側面 や不安を強調するようになってきた。

 かつては、事故責任を恐れてどの学校も臨海学校はなくなり、また、川に近づかないように川から子どもたちを遠ざけてきたのではなかったのか。川活動では指導者が安心して指導できるような事故補償策として、損害を賠償できる額を補償した傷害保険あるいは損害賠償保険が完備されるのは必須である。


 どれぐらいの保険補償額が必要か

 どれぐらいの補償ができる保険に入っておくべきかを、以下に参考までに、「川遊びで死亡した子ども」の損害賠償請求裁判例からその賠償額の計算根拠を挙げておく。

(1)

死亡児童の遺失利益について
――1,587,500(年間収入)×1/2(生活費控除額)×19,574(係数)=15,536,862(円)
(条件)
 平均余命、高校卒程度、18歳時から就業、賃金センサスより年間収入(賞与等を含む)を考慮して158万7500円相当とし、生活費の5割を控除する。遺失利益を年別 ホフマン式計算法による係数19.574を採る。
 次に、本人の自己過失を相殺して、被告の負担すべき部分は2割とする。
 よって、 15,536,862×0.2=3,107,372.4(円)を支払えと。さらに以下に続く。


(2)


慰謝料
――死亡児童の慰謝料は50万円、原告らの慰謝料はそれぞれ50万円


(3)


葬儀費用
――30万円で、そのうち被告らの負担すべき割合は2割で、6万円


(4)

弁護士費用
――訴訟の性格、態様、期間、難易度、許容金額等を照らしてその費用中各30万円

(5)

よって、父親に266万3686円、母親に260万3686円を支払え

)参考までに述べると、後遺障害の場合に1億5,356万3,290円支払え、という判決(平成6年、福岡地裁判、「高等学校運動会損害賠償請求事件」)もあり、それ相当の保険に入っておくべきである。

 保険の紹介

 本来ならば表1のように配慮した保険の充実が望まれ、「川に学ぶ」体験協議会(2000年9月発足)による傷害保険ならびに賠償保険が完備されていなければならない。現在、自然体験活動推進協議会(2000年5月発足)とタイアップした保険制度が保険会社と協議・計画されつつある。

 それまでは、指導者が安心して指導できるように、最寄りの○○火災保険に相談するか、スポーツ安全保険、ボランティア保険・ボランティア活動等行事保険(県、市町村の社会福祉協議会により違うが、行政単位 により独自なものを扱っていたり、協議会の構成員や会員であることを条件付けているところもあるので注意を要する。)、日本レクリエーション協会総合賠償責任保険(協会登録指導者に限るため解放されていない。)などで補えるように、指導者のリスクの面 からも加入を勧める。

 なお、ボランティア保険、日本レクリエーション保険は( )に示したように、条件を付しているので、「川に学ぶ」指導者に一般 化しにくい面がある。よって、関係するところへ問い合わせる必要がある。スポーツ安全保険はスポーツのみならず、社会教育活動にも解放されているので、ここに紹介しておく。


●スポーツ安全保険
財団法人スポーツ安全協会は、スポーツおよび社会教育活動の普及振興に寄与する目的で、文部省に認可された営利を目的としない公益法人です。 この制度は、傷害保険と賠償責任保険および共済見舞金制度を組み合わせたものです。

表2 (加入区分)
加入区分
A
B
C
D
掛け金
(1人年額)
450円
800円
1400円
9000円
傷 害 保 険
死亡
2000万円
500万円
2000万円
500万円
後遺障害
(最高)
3000万円
750万円
3000万円
750万円
入院
(1日につき)
4000万円
1800万円
4000万円
1800万円
通院
(1日につき)
1500万円
1000万円
1500万円
1000万円
賠 償 責 任 保 険
身体賠償
(補償限度額)
1人・・1億円  免責(自己負担)1000円
1事故・・5億円 免責(自己負担)1000円
財物賠責
(補償限度額)
500万円 免責(自己負担)1000円
共 済 見 舞 金
突然死、
急性心不全、
脳内出血、
日射病、熱射病
140万円
注)加入区分と対象となる団体

A:

子ども・・中学生以下の児童・生徒および乳幼児、盲学校、聾学校、養護学校の生徒により構成された、スポーツ、文化活動、ボランティア活動おこなう団体
A団体の運営上、必要な指導者や保護者・・一緒にAの掛け金で良い。
本人の活動の場合はC
成人の文化活動、ボランティア活動、地域活動・・高校生以上の生徒・学生あるいは社会人で構成された団体

B:

老人クラブ

C:

成人のスポーツ(Dを除く)・・高校生以上の生徒・学生あるいは社会人で構成された団体

D:
山岳登はん、アメリカンフットボール、リュージュ、ボブスレー、スカイダイビング、超計量 動力機(モーターハングライダー等)ハングライダー

(加入について)
この保険は、スポーツ活動、文化活動、ボランティア活動、地域活動、指導活動等を行う5名以上のアマチュアの団体やグループ(社会教育関係団体)を対象とします。
加入依頼書はスポーツ安全協会支部の他、各市町村の教育委員会、体育協会および主要体育施設などに備え付けてあります。

(対象となる事故の範囲)

活動中

被保険者の所属する団体の管理下における活動中の事故
ただし、学校管理下における活動中の事故を除きます。)


往復中

所属する団体が指定する集合、解散場所と被保険者の住所との通常の経路往復中の事故

(注1)

傷害保険、賠償責任保険、共済見舞金ともに日本国内における事故に起因する場合に限られます。

(注2)

「団体の管理下」とは、団体の活動計画に基づき、指導監督者の指示に従って団体活動を行っている間をいいます。具体的には、活動場所に集合してから、準備をし、活動を実施(その間の移動中や休憩中を含む)し、後始末をし、解散するまでの間をさす。また、宿泊を伴う合宿等の場合は、宿泊、旅行の全行程が対象となり、その間の休憩中や自由時間中も含まれます。

(注3)
学校の部活動の団体にあっては、学校管理下でないことの学校長の証明書が必要となります。

(傷害保険について)

1)

対象となる傷害
 被保険者が団体の活動中および往復中に、急激で偶然な外来の事故により被った傷害および傷害に起因する後遺障害および死亡が対象となります。
(注)ただし次のものはここにいう傷害には含まれません。
・細菌性食物中毒、日射または熱射による身体の障害
・急性心不全(心臓マヒ)等の心臓疾患
・ 野球肩、疲労骨折、関節ねずみ、タナ障害、靴ずれ、その他外傷によらないスポーツ特 有の障害

2)

支払われる保険金 ・・表2参照
(注1)上記保険金は健康保険や他の保険からの給付、賠償金などと関係なく支払われます。

3) 保険金が支払われない場合
次のような事由により生じた傷害
(1)被保険者や保険金受取人の故意
(2)被保険者の自殺行為、犯罪行為、無資格運転、酒酔い運転
(3)被保険者の脳疾患、疾病(心臓疾患を含む)、心神喪失
(4)被保険者の妊娠、出産、流産、外科的手術その他の医療処置
(5)地震、噴火、津波、戦争その他の変乱、環境汚染、放射能汚染、等

ムチ打症や頚椎症などの頚部症候群および腰痛で、自覚症状しかないもの

入・通院が4日未満の場合。

学校または保育所の管理下の活動中に生じた傷害
(ただし、大学の学生が行うクラブ活動中に生じた傷害に対しては支払われます。)

(賠償責任保険について)
1)

対象となる損害
被保険者が団体の活動中および往復中に、他人にケガをさせたり、他人の物を壊したり したことによって、法律上の損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われます。

(例1)
自転車で集合場所へ行く途中、通行人の人にぶつかりケガをさせたため、損害賠償責任を負う場合。

(例2)
野球で打ったボールが道路走行中の他人の車に損害を与えたため、プレーヤーが損 害賠償責任を負う場合。

【注意】
ボール等が飛んでくると予想される場所に駐車している車の賠償責任事故につい ては、過失相殺が適用されることがあります。

2)
支払われる保険金・・表2参照
(注1)
損害賠償金には、逸失利益、治療費、休業補償費、慰謝料、修理費、買替費、弁護士報 酬、争訟費用、応急手当、護送費用などを含みます。

(注2)
賠償金は被害者の過失割合や、他の者(例えば施設の管理者)の責任割合を勘案して決 定されます。賠償事故については、加害者の一方的な過失によるものは少なく、被害者 自身にも過失のあるものや不可抗力によるものが多いため、示談に際しては事前に幹事   保険会社・東京海上と十分ご相談ください。なお、示談交渉は、加害者である被保険者に行って頂くことになります。

3)
保険金が支払われない場合
 
1:
次のような事由により生じた傷害
 
(1)
被保険者の故意、心神喪失

 
(2)
被保険者の、または被保険者の指示による暴行・殴打

 
(3)
地震、噴火、洪水、津波などの天災。戦争、変乱、暴動、騒擾、労働争議

 
(4)
自動車・航空機(グライダーを含む)・船舶(人力または風力を原動力と するものを除く)の所有、使用または管理。狩猟。
【例】自動車で集合場所へ行く途中、自動車事故を起こして賠償責任を負った場 合は支払われません。ただし、自分のケガに対しては傷害保険で支払われます。

 
2:
被保険者と同居する親族に対する賠償責任

 
3:
団体または被保険者の所有、使用もしくは管理する財物の損壊について、その財 物につき、正当な権利を有する者に対して負担する賠償責任(ただし、団体が練 習・合宿等で一時的に使用または管理する宿泊設備、体育設備を壊した場合は支 払われます。)
【例】テニスやバドミントンのラケット、あるいは跳び箱やバレーボールのネッ トなどを借りて過って壊した場合には支払われませんが、使用している体育館の 窓ガラスを過って割ってしまった場合は支払われます。

4:
体育館、運動場等の施設そのものの構造上の欠陥や管理の不備に起因する賠償責任
5:
被保険者の占有を離れた飲食物、または被保険者の占有を離れ施設外にあるその 他の財物に起因する賠償責任
【例】ハイキングに行くためにおにぎりを作ったが、それが原因で食中毒となっ た場合には支払われません。

6:
学校または保育所の管理下において行う団体活動の遂行に起因する賠償責任

7:
被保険者が、団体活動を行い、または指導することを職務とする場合、その職務 遂行に直接起因する賠償責任(ただし、被保険者が他人に使用されて団体活動を 行い、または指導している場合を除く。)

8:

被保険者が公務員(ただし、体育指導委員等の非常勤で団体活動を指導する者を 除く)として職務遂行した業務に起因する賠償責任
【注意】スポーツには一定のルールがありますが、スポーツそのものが多少とも危 険を伴っているだけに、たとえこれらのルールを守ってプレーをしていても、い わば必然的に起こってしまう事故もあります。このような事故の場合は、法律上 の損害賠償責任はないものと考えられます。 例えば、次のような事故の場合は法律上の損害賠償責任はありません。
【例1】サッカーで選手同志がぶつかり、相手がケガをした場合。
【例2】野球やサッカーでボールが相手のメガネに当り、メガネを破損した場合。


(共済見舞金について)

1)

対象となる事故
加入者が団体の活動中および往復中に発生した、突然死(急性心不全、脳内出血等による死亡)が支払いの対象となります。
突然死とは、その顕著な徴候が上記でいう「活動中および往復中」に発生した、突然で予期されなかった病死をいい、急性心機能不全(心臓マヒ)、急性心不全、急性心停止、または特別 な外因が見当たらない頭蓋内出血等が直接死因とされたもので、原則として発症から24時間以内に死亡したものとします。

2)
支払われる見舞金・・表2参照
  (注1)見舞金は、傷害保険の死亡保険金と重複して支払われません。

)

見舞金が支払われない場合

次のような事由による死亡
 
1:
見舞金を受け取るべき者の故意。ただし、その者が見舞金の一部の受取人である場合には、他の者が受け取るべき金額については、この限りではありません。

 
2:
加入者の自殺行為、犯罪行為または闘争行為。

 
3:
加入者が無資格で、または酒に酔ってもしくは麻薬、大麻、あへん、覚醒剤、シ ンナー等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、自動車または原動機付自転車を運転している間に生じた事故。

 
4:
地震、噴火、津波、戦争その他の変乱。

 
5:
核燃料物質等の放射性、爆発性その他の有害な特性。

 
6:
放射線照射または放射能汚染。

 
7:
細菌性食物中毒。

 
8:
学校または保育所の管理下の活動中に生じた事故。

スポーツ安全保険は東京海上を幹事会社として、損害保険会社15社との共同保険となっております。(2001年4月1日現在予定)